トランプ関税が日本のねじ・部品市場に与える影響は?メーカーが取るべき逆転の対応策

2025年05月27日(火)
2025年05月27日(火)

米国のトランプ政権による25%の追加関税が、世界各国の経済や産業に打撃を与えています。日本のねじ・部品産業やその関連業界も例外ではありません。輸出減少や利益率低下が避けられない中、サプライチェーン再編や新市場開拓など、企業は逆転の一手を迫られています。

この記事では、トランプ政権の関税政策が日本のねじ・部品メーカーへどのような影響を与えるのか?また、対応策はあるのか?などについて考察してまいります。

日本のねじ・部品業界にとってのトランプショックとは

2025年4月3日、米国に輸入される自動車に対してトランプ政権による25%追加関税措置が発動されました。これを受けて、世界各国や日本からは強い懸念と反発が表明されています。日本政府や業界団体は、米国市場へのアクセス制限やコスト増による経済的打撃を懸念し、外交ルートでの撤回や緩和を求めています。

では、日本のねじ・部品メーカーや関連業界にとって、この25%追加関税措置はどのような影響があるのでしょ

「トランプ政権2.0」による25%関税

25%追加関税措置は1962年通商拡大法232条に基づき、「自動車や部品の輸入が米国の安全保障に脅威を与える」との判断が背景にあります。また、トランプ政権は米国の貿易赤字削減と国内産業保護を目的に、他国による「不公平な貿易慣行」への対抗措置として関税強化を打ち出しました。

具体的には、米国に輸入される自動車と主要な自動車部品に対して、追加で25%の関税が課されます。対象は日本、韓国、ドイツなどからの完成車、部品、鉄鋼などです。追加関税後の自動車関税率は従来の2.5%に25%を上乗せし、計27.5%となります。

また、4月9日には、米国が貿易相手国に対して「相手国が米国製品に課している関税率と同じ水準まで、米国もその国からの輸入品に関税を引き上げる」という「相互関税」も導入されました。ただし、その後90日間の一時停止措置も発表されています。

鉄鋼・アルミニウム資材の高騰

自動車と主要な自動車部品に対する追加関税に先立ち、2025年3月12日から、米国は例外なく全ての国から輸入される鉄鋼・アルミニウム製品に25%の追加関税を課す措置を発動しています。この結果、米国市場向けの鉄鋼・アルミニウム製品の価格が関税割合に合わせて上昇。

果、米国市場向けの鉄鋼・アルミニウム製品の価格が関税割合に合わせて上昇。
これを受けて米国向け輸出が減少し、鉄鋼・アルミ製品が他国市場に流れて世界的に供給が分散し、各国市場でも需給バランスが崩れやすくなっています。

さらに、米国の関税措置に対抗して、EUやカナダなど各国も報復関税を導入する動きがあり、国際的な貿易摩擦が拡大。これが世界的な鉄鋼・アルミ資材の流通や価格形成にさらなる不透明感と上昇圧力をもたらしています。

日本のねじ・部品市場への影響

米国の追加関税措置により、世界的に鉄鋼・アルミ資材の需給がひっ迫し、価格が高騰しています。ねじ・部品は鉄鋼・アルミを主原料としているため、日本国内のねじ・部品メーカーも原材料調達コストの上昇を余儀なくされています。

原材料費の上昇は、ねじ・部品の製造コストに直結します。メーカーはコスト増を販売価格に転嫁せざるを得ず、価格競争力の低下や利益率の圧迫を生みます。自動車や電機、精密製品など、主要ユーザー産業にもコスト増は波及し、需要の先細りや発注量の変動が発生しやすくなっています。

鉄鋼を資材とする主なねじ・部品の具体例

以下は、鉄鋼を資材とする主なねじ・部品の具体例です。

  • 六角ボルト、六角穴付きボルト、小ねじ、タッピングねじなどの各種ボルト・ねじ類
  • ナット類
  • 座金(ワッシャー)、ばね座金
  • 割ピン、リベット、ピン類
  • 自動車部品(エンジン部品、トランスミッション、パワートレイン部品、電気部品など)

これら鉄鋼製のねじ・部品は、自動車や建設機械、産業機械など幅広い分野で使用されています。米国の25%追加関税措置の対象となっている鉄鋼を主原料とするため、コスト増や需要減の影響を直接受けやすい品目と言えるでしょう。

アルミニウムを資材とする主なねじ・部品の具体例

以下は、アルミニウムを資材とする主なねじ・部品の具体例です。

  • 十字穴付きナベ小ねじ
  • 十字穴付き皿小ねじ
  • 十字穴付きトラス小ねじ
  • 六角ボルト
  • 六角穴付きボルト(キャップボルト、超極低頭ボルトなど)
  • 六角ナット
  • 平ワッシャー
  • スプリングワッシャー(ばね座金)

これらアルミ製のねじ・部品は、軽量性や耐食性を活かして、自動車、ドローン、ロボット、福祉機器、電子機器などの分野で幅広く利用されています。米国の25%追加関税措置の対象となっているアルミを主原料とするため、コスト増や需要減の影響を直接受けやすい品目と言えるでしょう。

今後のさらなる影響と対応策

今後もトランプ関税が継続し、各国間の貿易摩擦が激化、鉄鋼やアルミ価格の高騰が続く場合、日本のねじ・部品業界には以下のような深刻な影響が懸念されます。

  • 鉄鋼やアルミの国際価格が高止まりすることで、ねじ・部品メーカーの調達コストが一段と増加し、利益率が圧迫されます。
  • コスト増分を製品価格に十分転嫁できないと、メーカーの収益悪化や価格競争力の低下につながります。
  • 各国で報復関税や輸出規制が強化されると、安定調達が困難になります。納期遅延や生産停止のリスクも高まります。
  • 自動車や電機といったねじ・部品ユーザーである主要産業でもコスト増による生産調整や設備投資抑制が広がり、需要減少や業界再編が進む可能性があります。
  • 関税回避やコスト抑制のため、海外現地生産や調達先の多角化が進みますが、中小企業にとっては資本力やノウハウ不足が障壁となり、淘汰リスクが高まります。

大手メーカーによる現地生産へのシフト策

トランプ関税の悪影響を回避・軽減するため、自動車やFA(ファクトリーオートメーション)といった大手メーカーの中には、米国内での生産体制強化や現地化の推進に踏み切った企業もあります。また、メキシコやカナダなどのUSMCA域内生産用語解説①参照)を行うことで、米国への輸出時の関税軽減や回避を図っています。

これまで中国を主力生産拠点としていたIT・電子機器メーカーは、関税リスクの分散やサプライチェーン再編用語解説②参照)と強靭化を目的に、ベトナムやインド、メキシコなど米国と友好関係にある国へ生産拠点を移転・拡大する動きも顕在化しています。

大手グローバル企業や先進国メーカーは、米国の高関税政策や地政学リスクに対応するための戦略として、フレンドショアリング用語解説③参照)を採用しています。日本の電子機器・加工産業各社もこれに倣う動きがあります。

【用語解説①】USMCA域内生産

米国・メキシコ・カナダの3カ国域内で生産された製品だけが、USMCAの関税優遇措置を受けられるように定められた基準を、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則(ROO=Rules of Origin)と呼びます。この基準を満たす形で、米国・メキシコ・カナダのいずれかで製品を生産することをUSMCA域内生産と言います。

USMCA域内生産は現時点では有効な回避策ですが、米国はUSMCA自体の再交渉や見直しを進めています。今後の政策変更リスクや、原産地規則のさらなる厳格化、非自動ライセンス制度の導入など、新たな障壁も増える可能性があります。

【用語解説②】サプライチェーン再編

サプライチェーン(Supply Chain)とは、製造、物流、販売といった製品や商品が消費者の手に届くまでの「一連の流れ」や「つながり」を指します。そして、サプライチェーン再編とは、地政学リスクや関税政策、パンデミックなど外部環境の変化に対応して、この流れを抜本的に見直し・再構築することです。

具体的には、生産拠点や調達先の分散、現地生産の拡大、サプライヤー(供給者)の多角化、ERP(Enterprise Resource Planning)といった企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の一元管理など、情報インフラの活用による全体最適化などが含まれます。

トランプ関税の悪影響回避策として、サプライチェーン再編は非常に有効な手段とされています。大手メーカーだけでなく、中堅・中小企業にとっても方法や選択肢によっては可能な施策と言えるでしょう。

【用語解説③】フレンドショアリング

フレンドショアリング(friend-shoring)とは、「フレンド(友だち)」と「ショアリング(支える)」を組み合わせた造語です。サプライチェーンを「同盟国」や「友好国」など、信頼できる国々に限定して構築する戦略を指します。

例えば、日本は米国の重要なパートナーですが、米国の保護主義的政策が続く限り、柔軟な対応が必要とされています。フレンドショアリングの流れの中で、日本のメーカーは米国内生産への移行やサプライチェーン再編を迫られています。

中小・中堅の部品・金型メーカーへの影響

大企業は米国や東南アジアへの工場移転で対応可能ですが、中小メーカーは資金不足や人材確保といった点からそう簡単に移転することはできません。また、取引先の大手自動車メーカーが米国向け生産を日本から移管すると、日本国内の部品需要が急減し、特定メーカーに依存する中小サプライヤーは「3カ月で1.3万台減産」の影響を受け、収益が圧迫されます。

2025年2月の帝国データバンク調査では、トランプ関税の影響を受ける日本企業は約1万3,000社にのぼり、特に米国向け輸出依存度の高い中小企業で倒産件数の増加が予測されています。中小・中堅の部品・金型メーカーが廃業・休業に追い込まれれば、特定の部品を必要とするメーカーにとっても国内調達が困難となり、事業運営に悪影響を及ぼすことになるでしょう。

まとめ:日本のねじ・部品市場がトランプショックを最小限に抑えるために

トランプ政権による25%追加関税は、日本の自動車メーカーや鉄鋼・アルミニウムを原材料とするねじ・部品メーカーを直撃し、特に米国に生産拠点を持たない中小・中堅部品メーカーに深刻な打撃を与えています。

大手メーカーは、米国内やフレンドショアリング域内への工場移転といった、サプライチェーン再編に踏み切ることで対応策を図っています。しかし、資金やマンパワー面で不利な中小・中堅メーカーは、関税による直接コスト増に加え、大企業の生産移管に伴う国内需要減少という二重のリスクに直面しています。

今後、日本のねじ・部品メーカーは価格競争に巻き込まれやすい汎用品から脱却し、工程数の多い複雑な製品や、顧客の要望に応じたカスタム品など、他社が簡単に真似できない高付加価値品へのシフトが重要となってくるでしょう。

また、電子制御やIoT技術を活用した「スマートねじ」など、新技術の導入・開発を進め、独自性と競争力を高めることも有効です。電子制御や新分野の技術習得や、他社・大学との連携による人材確保も有効な方策となるでしょう。

ねじ・部品の発注先に困ったら、フカサワへご相談ください!

ねじや部品、パーツの総合商社である株式会社フカサワは、ねじや部品、パーツに関するあらゆるご要望にご対応しております。「発注先が見つからない」「発注先を変えたい」「特殊な原材料や形状のねじや部品を製作したい」…など、何でもお気軽にご相談ください。

創業80年の実績から培われたノウハウで、コスト低減や工程の改善といったご相談にも応じております。安定的なねじ・部品、パーツの供給のために最適なご提案をいたします。

ねじ・部品、パーツに関するお困り事がありましたら、弊社のお問い合わせフォームをぜひご活用ください。

  |