【abs樹脂の特徴と加工】 abs樹脂について徹底解説!

2022年08月15日(月)

樹脂素材の一種としてABS樹脂というものがあります。見た目が美しくて耐久性や耐衝撃性が高く、加工もしやすいため、家電やキャリーケース、車の部品など、さまざまな用途に使われています。

今回がABS樹脂の特徴や素材として採用するメリット、種類、加工方法について、樹脂加工のプロが解説します。

ABS樹脂とは3つの樹脂の特徴を併せ持つハイブリット樹脂

ABS樹脂はアクリルニトリル、ブタジエン、スチレンという3つの成分を合成して造られるハイブリッド樹脂素材で、それぞれの頭文字をとって「ABS樹脂」と呼ばれるようになりました。一般的な樹脂素材、特に汎用プラスチックと呼ばれるものは軽量で加工がしやすく、コストも低く抑えられるのがメリットですが、熱や衝撃に弱いというデメリットもあります。樹脂の良さはそのままに、弱点を補ったものがABS樹脂です。

アクリルニトリルは非常に機械的性質が高く、熱や油にも強い樹脂です。ブタジエンは耐衝撃性や耐摩耗性が高いという強みがあります。スチレンは安定的な加工がしやすく、見た目が美しいのが特徴です。複数の樹脂を合成することで、それぞれの長所をすべて取り入れた、夢のような素材がABS樹脂なのです。

ABS樹脂の3つの特徴

3つの樹脂を組み合わせてそれぞれの良さを取り入れたABS樹脂。普通の樹脂と比較して特に優れている点として「耐衝撃性」「加工性」「耐薬品性」の3つが挙げられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

耐衝撃性

普通のプラスチック製品や部品は大きな圧力を加えたり衝撃を加えたりすると割れたり変形してしまったりすることがあります。そのため、力が加わる箇所に採用する素材としては不向きと言わざるを得ませんでした。

ABS樹脂は衝撃に強く硬いため、一般的な樹脂よりも強度が高いです。また、剛性が高いので、折り曲げても白くはなりますが、多少の力では破断することはありません。化学物質や水による腐食や劣化もしにくく、長持ちします。そのため、加工な環境下で使われる機械や電気製品の部品やパーツに採用されています。

 

加工性

金属よりも柔らかく軽量なので、樹脂という素材自体が非常に加工しやすい素材と言えますが、ABS樹脂も同様です。金型に溶けた樹脂を押し固めて冷やす射出成形、溶けた樹脂を型に押し出す押出成形、風船のように樹脂の内部に空気を送り込んでふくらませる中空成形、ロールとロールの間に溶けた樹脂を流し込んで引き伸ばすカレンダー成形という各成形技術で製品を形づくることが可能。切削、接着、溶着、メッキ、塗装などの加工もしやすいです。

また、塗料が付着しやすいため、見た目を美しくすることも可能です。車のバンパーやエアロパーツ、模型やプラモデルのパーツ、家具や家電の筐体の素材としても使われています。

 

耐薬品性

耐薬品性が高いのもABS樹脂の大きな特徴です。一般的な樹脂は化学物質や薬品にふれると化学反応を起こして溶けてしまったり変形してしまったりします。ABS樹脂は化学物質に対しても非常に強く、多少酸やアルカリが付着しても大丈夫です。そのためキッチン用品や冷蔵庫、洗濯機などの家電の部品や筐体にも使われています。

ただし、いくら耐薬品性が高いといっても、シンナーなどの有機溶剤が付着すると、他のプラスチック製品同様にABS樹脂製品も溶けてしまうことがあるので、注意が必要です。

ABS樹脂に存在する3つの弱み

一般的な樹脂のメリットに加えて外部からの力や衝撃、化学物質や薬品にも強く、なおかつ加工がしやすいABS樹脂ですが、万能というわけではありません。ABS樹脂には「可燃性」「臭気」「耐候性」という3つの弱点があります。それぞれ見ていきましょう。

 

可燃性

ABS樹脂は70℃~100℃の耐熱性がありますが、樹脂であるため高温になると変形し、炎上する可能性があります。そのため、高温になる箇所や火の気がある箇所の製品や部品・パーツの素材にはABS樹脂よりも金属を選択したほうがいいかもしれません。また、家屋や家具にABS樹脂が使われている場合、火災が発生したときに延焼する危険性がありますので、注意が必要です。燃え広がるだけでなくABS樹脂が燃焼することで有毒ガスが発生し、人体に悪影響を及ぼすおそれもあります。

 

臭気

ABS樹脂には独特の臭いがあり、特に加工中は臭気を強く感じます。製品になった段階ではそれほど臭いは気にならなくなりますが、やはり独特の臭いが残っている場合もあります。また、ABS樹脂が炎上した場合、黒煙とともにかなり強い臭気が発生します。

 

耐候性

プラスチックは耐候性が低い、つまり日光や紫外線などにさらされると劣化して強度が落ちたり退色したり変形したりという弱点がありますが、やはりABS樹脂に関しても同じことが言えます。そのため、常に日光や風雨に晒される屋外で使うケースでは他の素材を選択したほうがいい場合もあります。

弱みを克服したABS樹脂

強みもあれば弱みもあるABS樹脂ですが、弱点を克服したABS樹脂もあります。これらを採用すれば、高温になる箇所や屋外など過酷な環境下であっても素材として使える可能性があります。ここからは弱点を克服したABS樹脂の種類と素材について見ていきましょう。

 

耐熱性向上

α-メチルスチレン系ABS樹脂

前述のとおり、一般的なABS樹脂はアクリルニトリル、ブタジエン、スチレンを組み合わせた樹脂のことを指しますが、α-メチルスチレン系ABS樹脂はスチレンの代わりにクメンを酸化させることで得られるα-メチルスチレンを配合しています。これによってABSの弱点である耐熱性がアップしています。

フェニルマレイミド系ABS樹脂

フェニルマレイミド系ABS樹脂は無水マレイン酸と一級アミンの化合物であるフェニルマレイミドを添加したABS樹脂で、前述のα-メチルスチレンよりもさらに高い耐熱性を有しています。一般的なプラスチックやABS樹脂が使えないような高温下でも、α-メチルスチレン系ABS樹脂あるいはフェニルマレイミド系ABS樹脂であれば対応できる可能性があります。

 

耐候性向上

ASA樹脂

ASA(Acrylate Styrene Acrylonitrile)樹脂はブタジエンの代わりにアクリルゴムを配合した樹脂です。ABS樹脂の性質はそのままに、より耐候性が向上し、「耐候性ABS」とも呼ばれているほどです。日光や紫外線に晒される屋外でも使用することが可能。美観にも優れているのも特徴です。

ただし、耐薬品性はあまり高くなく、アルコールや鉱物油、強酸、強アルカリには弱いという側面もあります。

ACS樹脂

ACS(Acrylonitrile Chlorinated polyethylene Styrene)樹脂とはブタジエンの代わりに塩素化ポリエチレンを配合した樹脂です。こちらもABS樹脂の性質を保ったまま耐候性を向上させた樹脂素材です。さらに、塩素含有量を多くすることで柔らかくなり耐衝撃性や耐熱性といった性質をアップさせることができます。

AES樹脂

AES(Acrylonitrile Ethylene-propylene-diene Styrene)樹脂はブタジエンの代わりにエチレン-プロピレン-ジエンを配合することで耐候性を高めた樹脂素材です。特に光による劣化がしにくい性質があり、強烈な日光を浴び続けるような環境下でも使えます。他にも引張強さや曲げ強さ、耐衝撃性、電気的性質に優れているという特徴もあります。

ABS樹脂の加工法

前述のとおりABS樹脂の特徴としてさまざまな加工がしやすいということが挙げられます。特に金型を使った射出成形とは相性がよく、品質が高い製品を大量に生産することができます。加えてABS樹脂は見た目がよく、射出成形であれば塗装をしなくても表面に光沢を出すことができるので、電化製品の外装や部品にもこの方法が用いられます。また、3Dプリンターの材料としても加工性が高いABS樹脂が注目されています。ここからはABS樹脂の加工方法について見ていきましょう。

 

射出成形

樹脂を加工してプラスチック製品を形づくることを成形と言います。射出成形とは加熱してやわらかくなった樹脂を金型内に注入した後に冷却して固化させることで、プラスチック製品を成形する方法です。特に小型の製品や部品・パーツは多くがこの方法で生産されています。金型があれば同じ製品を造ることができるので、大量生産に向いている加工方法です。

射出成形をはじめとした樹脂の成形加工技術について詳しく知りたい方は、成形加工もご覧ください。

 

3Dプリンター

3Dプリンター3DCADのデータにもとづいて材料を一層一層積み上げるようにして製品を形づくっていく成形機です。CADデータさえあればすぐにそれを成形できて、なおかつ切削や接着などの他の加工工程が不要となるため、開発や生産の納期を短縮できる、コストを削減できるなどのメリットが得られます。また、複雑な形状を形づくることができて非常に精巧であるため、品質向上にもつながります。

ABS樹脂は機械的性質や耐熱性が高く、粘り強さも持ち合わせていることから、樹脂を積み重ねることで成形する3Dプリンターに向いている素材であると言えます。
なお、弊社では3Dプリンタ-の取扱いはしておりません。

 

【注意】曲げ加工には向かない

さまざまな加工に向いているABS樹脂ですが、唯一曲げ加工には向かないという弱点もあります。ABS樹脂は非常に剛性が高く硬い素材です。少しの力では曲がることはなく、かといって無理に力を入れてしまうと曲げたところが白くなってしまったり、割れてしまったりします。

樹脂の中でも後加工のしやすいABS樹脂

ABS樹脂はメッキや塗装などの後加工もしやすい素材です。塗料やメッキの定着性がよく、特に金属のような光沢があるメッキに向いていて、車のフロントグリルやモールなどにはクロムメッキを施したABS樹脂が使われています。屋外の過酷な環境下に置かれてもメッキが剥がれたり変形したりすることはないことから、ABS樹脂の耐久性や後加工のしやすさがわかります。金属感を損なわないために、モデルガンの部品などにも使われることが多いです。

一方で有機溶剤が含まれている塗料などを使用すると他の樹脂と同様に溶けたり変形したりするおそれがあるので、注意が必要です。

「いくらABS樹脂でもちょっと…」と他社に断られたお客様へ

一般的な樹脂と比較して衝撃や薬品に強く、加工もしやすいABS樹脂や、さらに耐候性や耐熱性を向上させたABS樹脂を使えば、製品の軽量化や性能アップ、コストダウンが実現できるかもしれません。普通のプラスチックでは耐えられない環境下で使う製品や部品・パーツも、ABS樹脂なら対応できる可能性があります。

とはいえ、ABS樹脂も万能ではありません。どうしても樹脂である以上、耐熱性や耐候性には限界があり、金属に軍配があがるケースも多いです。また、加工しやすい素材ではありますが、曲げ加工や有機溶剤を使った塗装などには向いていません。

部品やパーツの素材選定やABS樹脂の加工でお困りの方は株式会社フカサワにご相談ください。弊社は創業80年以上のねじ・部品・パーツの専門商社です。これまで培った技術力・提案力・対応力を活かして、お客様の生産現場の課題解決に貢献します。

一般的な樹脂はもちろん、ABS樹脂に関してもさまざまな素材・加工に対応。素材選定から納品まで一貫しておまかせいただけます。他社で断られた方、コストが高いと感じられた方はぜひご連絡ください。

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