火炎焼入れ

火炎焼入れとは

火炎焼入れとはバーナーで炎を鋼や合金鋼製の材料やワーク(加工物)に吹付けて硬化させる表面熱処理です。変態点である800℃まで加熱させることで、炭素が鉄に固溶し、組織がより強固なものになります。その後、水や冷却油などで急速に冷却させることで、ワークの強度や耐摩耗性、疲労強度がアップするのです。熱処理の方法としては歴史が古く、日本でも昔から行われてきました。

火炎焼入れには酸素、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、メタンなどのガスが使用されますが、発熱量や燃焼速度、火炎温度が得られる酸素とアセチレンを混合したガスが使われることが多いようです。温度の測定や炎の調整、火口の製作が難しいため、火炎焼入れを行うには熟練した技術や経験が必要とされます。

火炎焼入れの特徴

火炎焼入れ後は炭素が鉄と固溶するので、高い硬度と耐摩耗性をもたせることができます。また、残留応力が発生するので、金属疲労にも強くなります。鋼の性能向上はもちろん、鋳鉄に耐摩耗性をもたせるために行われることも多いです。

急速加熱・急速冷却するため、処理時間が短い、ワーク全体が加熱・冷却されないため、他の熱処理よりも変形を少なくできるという長所があります。また、高周波焼入れなどと違い、必要とされる設備も比較的簡素でコストを抑えることも可能です。

一方で、片側だけを火炎焼入れした場合は変形が生じるというのがデメリットです。前述のとおり、温度の調整や設備の製作などの難易度が高く、高い専門技術や経験が必要。大量生産品にはあまり適しておらず、多品種少量生産に向いている熱処理方法と言えます。

  • ワークの形状やサイズの制限が少ない
  • 局部加熱が可能
  • 治具やコイルが不要だから経済的
  • 酸化や脱炭、変形が少ない
  • 処理時間が短くて済む
  • 硬化層硬さの低下が緩やかなので、焼割れの心配がない

主な火炎焼入れの方法

火炎焼入れには「定置法」「回転法」「漸進回転法」という3つの方法があり、ワークの形状や焼き入れる箇所などに応じて適切な方法を選択します。これによって、必要な箇所に必要な性能をもたせ、より効果的で効率的な熱処理が実現可能です。

定置法

ワークと火口両方の位置を固定して、一部の箇所のみに炎を吹き付けて加熱する方法です。火炎焼入れは必要な部分のみ熱処理を行う局所加熱処理ができますが、これを可能にしているのが定置法と言えます。また、ワーク全体を定位置法で焼き入れることで、加熱ムラを軽減して歪みを防ぐことも可能です。

回転法

ワークを回転させながら円周上を加熱する方法です。歯車やシャフトなどの円形もしくは円柱状の部品に最適。回転させて均一に炎を吹き付けることが可能で、ワーク全体の耐摩耗性や強度といった性能を均一にすることができます。

漸進回転法

漸進(火口を直線状に動かす)と前述の回転(ワークを回転させる)を組み合わせて熱処理を行う方法です。複数の動きを取り入れることで、より炎を吹き付けられる範囲が広くなるので、長いシャフトや複雑な形状のものに適しています。

【目的別】熱処理の種類

種類(名称) 目的 得られる効果
焼なまし 体質改善 軟化
焼ならし 体質改善 硬化
焼入れ 体質改善 硬化
焼戻し 体質改善 軟化
浸炭 表面改善 表面硬化
窒化 表面改善 表面強化
高周波焼入れ 表面改善 表面硬化
炎焼入れ 表面改善 表面硬化
電解焼入れ 表面改善 表面硬化